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日経新聞の記事

日経新聞の記事

2024年7月27日の日経朝刊の「医療・介護・健康」という紙面で動物介在療法などに関する大きな記事が掲載されていた。
そのタイトルが【「アニマルセラピー」に光明】であったがここですでに用語の間違いを指摘しなければならない。
アニマルセラピーという言葉はメディアなどがしばしば用いている言葉であるがこれは極めて不正確な表現である。
すでに国際学会などで取り上げられて30年以上になるが正確な表記はアニマル・アシステッド・セラピーとアニマル・アシステッド・アクティビティである。
前者の日本語訳は動物介在療法、そして後者が動物介在活動と訳されておりすでに何年もの間我が国においてもこの言葉が用いられている。
アニマルセラピーとはその両者をごちゃまぜにしたいわゆる一般社会、ひいてはメディアなどが「乱用」してきた表現である。
その意味は「動物は人を癒してくれる、気持ちを穏やかにさせてくれる、安心感を与えてくれる」等々非常にファジーなものとしてとらえられているのである。
日経の記事に話を戻すと「セラピー犬とファシリティドッグの違い」という表まで記載されているがこれもまた不正確極まりない。
参加させる犬がどのような名称で呼ばれていてもその犬がハンドラー(犬を連れていく人間)と現場においてどのようなことをするかによってそれが医療の一環、治療、であったりレクリエーション、すなわち「慰問」的なものであったりするのである。
日経の表によると「セラピー犬」は教育やレクリエーションを行う犬であり、ファシリティドッグは治療に参加する犬である、となっているがこれは明らかな間違いである。
さらに表によると活動場所もセラピー犬は高齢者施設などでファシリティドッグは医療機関となっている。
さらには「付き添い」と表記されているハンドラーは、セラピー犬はボランティアでありファシリティドッグは看護師などと書いてある。犬の育成に関しては、セラピー犬は「家庭でのしつけ」そしてファシリティドッグは「専門的な訓練」となっているのである。
どれも現場を知らない者たちの勘違いとしか言いようがない。そもそも動物介在療法と動物介在活動は犬の種類で分けるのではなく現場でどのようなことをするかによって分けられているのである。
動物介在療法とは特定の患者(訪問対象者)の治療の一環としてその患者の診断、治療目標等々が医療従事者によって明確にされたのちにその目標を達成するための手段の一つとして動物とのかかわりが用いられるというものであり、その際に参加をする犬・ハンドラーのペアはボランティアとその愛犬であることも十分に可能であり、各国で用いられている動物介在療法の大半がむしろそのような形で実践されていると言っても決して過言ではない。
生活の質、いわゆるQOLの改善のためのレクリエーション、慰問などは動物介在活動と定義されるが日経の記事で取り上げられているファシリティドッグでも入院中の子供たちなどに楽しいひと時をお届けするような訪問形態をとっている際にはそれはまさに動物介在活動というものであると言えるのである。
治療に貢献していることはあっても特定の治療目標に到達するための具体的な医療行為に直接参加をしているわけではないからである。
わかりやすく言えば身体的機機能の改善の一環としてリハビリテーションの専門家の指導のもとにグルーミングテーブルに置かれた犬の体のブラッシングをすることで「立位のバランス」を取る練習をする、犬にバンダナや犬具などの装着をさせながら手指の機能改善を目指すなどやり方や医療分野は様々であるがそれはすべて医療としと定義することができる。
いうまでもなくその現場にはかならず対象患者の担当の「有資格者」がいなければならない。
看護師がハンドラーをするだけでその行為を「治療」と定義することはできないのである。
上記のような事例では担当のリハ医、理学療法士、作業療法士等々が参加するべき有資格者であろう。
その他には治療目標によって臨床心理士、言語聴覚士等々様々な専門職がかかわる可能性がある。
しかし医療行為とするのであれば患者の診断・治療にかかわっている専門家がいなければならないのということは当たり前のことではなかろうか。
またアニマルセラピーを特別なものとしてとらえること自体が不自然である。
リハビリの手段として用いるのであればそれは作業療法・理学療法というべきであり「アニマルセラピー」という特殊なものではない。
動物を用いて高齢者の意識を覚醒させ過去の思い出などを語らせるのであればそれは回想法である。
このような説明を実践者たちがしっかりとできるようにならなければ動物介在はいつまでたっても「ファジー」なものとして扱われ、一部の信奉者たちの理解しか得ることができなくなってしまうのである。
さらに日経新聞の記事の「表」にある育成に関する記載であるがセラピー犬は「家庭犬のしつけ」そしてファシリティドッグは「専門的な訓練」となっているがこれも大きな間違いである。
そもそも動物介在療法・活動に参加する犬の訓練には何が必要であろうか?いうまでもなく見知らぬ人々との接触を楽しむことができる「性格的適正」は必須である。
またリードを付けて行儀よく歩く、号令に従って座ったり伏せたりし静止状態を保つ等々の基本的な家庭犬としてのしつけは必要である(むろんファシリティドッグも同様である)。
しかしそれに加えどのような専門的訓練が必要なのであろう?ホスピスなどで患者に寄り添う現場、活発に動く子供たちがいる現場、障害や治療などのために様々な器具が用いられている現場。。。訪問をする場所によって要求されるものは異なるのである。
筆者が研修を受けた米国の訪問動物認定の老舗であるペット・パートナーズの認定試験には一般的しつけのチェックに加え様々な刺激に遭遇する項目が多数ある。
見知らぬ犬に遭遇する、大声で言い争いをする人間たちに遭遇する、複数の人間に取り囲まれ撫でられる、試験官がフードを差し出す、非日常的な撫で方で接触をされる等々試験は20数項目ある。
この試験では特殊な芸当を要求されることはない。
現場にて安定した訪問ができるかどうかを見るのである。
受けに来るペアのほとんどがボランティアとその愛犬たちである。家庭犬のしつけに加え性格的安定性をここまで調べるのである。
そして認定を受けた者たちは医療の手伝いである動物介在療法の現場に行く者もいれば個別の病室訪問や高齢者施設、障がい者施設などの訪問活動をする者たちもいる。
さらには地域にどのような需要があるかによってはリハなどの手伝いをするところもあれば、レクリエーションとしての訪問をする場所にも行くというように、施設の要望によって自らの役割を使い分けている者たちもたくさんいるのである。
さらに付け加えれば活躍できるのは犬たちだけではない。
上述のペット・パートナーズの認定試験は家畜であればどのような動物でも受けることはできる。
認定書を持つウサギ、モルモット、猫なども多数存在する。
ウサギはその被毛の柔らかな感触ゆえに熱傷の回復期の子供たちの「接触体験」に用いられていた事例もある。いうまでもなく前述の認定試験に合格してからの話である。
ちなみに試験項目で犬の訓練にかかわるものは小動物用に書き換えている部分もある。
長々と書いてしまったが最近アニマルセラピーという言葉があまりにもいい加減に用いられていることに少なからず怒りを感じているためにあえて長文を提供することにした。
今までは「火消」をすることは面倒でありいちいち口うるさく声を上げることはさけてきた。
それぞれ好きなようにすればよいと思ってもいたが今回の日経新聞の大きな記事を目にしたときにはあまりのも間違ったことが書かれているのでひとこと言わなければと思った次第である。
ここまでお付き合いいただいた方には心より御礼を申し上げる。
また(一社)アニマル・リテラシー総研では動物介在にかかわる専門資料を多数出しているので関心のある方々はぜひそちらを参照していただきたい。


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